白い月~夜明け前のその空に~


被服室からは相変わらず賑やかな笑い声が響いていた。



二人しかいない準備室では、真剣になって探していたこともあってか、今頃になって少し肌寒さを実感した。





「辞めちゃったけど、大事な部員だったから……。ゆづこ、聞いてくれる?」


優月はそっと笑う仁科に、頷いて答えた。




仁科の過去の話は、優月の想像を遥かに超えるものだった。







桐谷みなみ。

それが彼女の本名だった。


桐谷は入部して間もなく、あることを部員全員に告白したそうだ。




自分は今妊娠しているということを。



その告白は部員達を大変驚かせた。

クラスメイトにも一切打ち明けてはおらず、入部して間もなかったが、心を許せる場所だと確信した手芸部だからこその、決意の告白だった。



優月は静かに心臓が早鐘を打つのを感じながら、一言も言葉を挟まず、隣で仁科の話をしっかり聞いていた。










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