白い月~夜明け前のその空に~
「はい!うっそーん。はっはっは、佐野ちゃん嘘下手だなぁ。いくらなんでもこんなさみぃとこに普通いないっしょ」
長澤は笑いながら優月の前の席に座ると、嘘をついた彼女を咎めることはせず、にこっとしながらぱちくりと黒目をしばたかせる。
「……ふぅ」
ああそうだった、彼はいつもそうだ。と、観念した風に小さく溜息を吐く。
「で、どうしたの?またお兄さんとケンカでもした?」
澄んだ眼差しから放たれる鋭い指摘に、心臓が跳ね上がる。
いつだって無邪気そうなのに、どこかに冷静な面も持ち合わせている。
「……ケンカっていうか、家に居づらいんだよね最近」
「そうなんだ?陸さんが、厳しすぎて、とか?」
「う~ん、口うるさいのは小さい時から慣れてる」
どこまで話していいか、躊躇う優月。
瞬のことは、何があっても公言はしないと決めている。
陽もすっかり陰り、教室には暗がりが広がり始めていた。