白い月~夜明け前のその空に~
いつもならこんな状況になれば、はぐらかして帰ることを選んだはずだが、今日はすぐに帰ることができなかった。
長澤もそんな彼女の様子を悟ってか、無理に聞くことはせずに、黒板に落書きなんかしだしていた。
「……帰らないの?」
彼の背中に向かって言う。
「うん」
「……いつ帰るの?」
「え?俺邪魔だった?ごめん!じゃ、帰ろっかなぁ」
一気に落書きを消すとバッグを掴み、『じゃなっ』と手を上げ廊下に出る。
「…ちょっ」
ガタンッ
まさか本当に帰るとは思わず、彼が去ると同時に優月は立ち上がっていた。
その数秒後、長澤がドアからひょっこりしめしめと顔を出したのを見て、むすっとしつつまた座り直す。
(……騙された)
彼が戻ってきて悔しくも、ほっとした。
一人で居たくない、本当は話を聞いて欲しかったというのが本音だと自覚したのだった。