白い月~夜明け前のその空に~
「地球が逆回転になっても、有り得ないし。ふふふ」
「出た出た、いつもの腹黒佐野!いっじわるー。せっかく人が心込めたプロポーズしてんのにぃ」
やってられっかと、ぶすったれ顔で机にうな垂れる長澤。
「そんなふざけたプロポーズあるかっ、もっと大事にしないとダメだって」
「ははははっ!それもそうだ」
納得した彼はコロッと表情を変え、いつもの子犬の笑顔を咲かせた。
辺りはもう真っ暗だというのに、二人のいる教室は昼間の時の空気と変わらなくなっていた。
そして優月の心を覆っていた暗がりも、陽だまりが差すように明かりが見え始めたのだった。
「大丈夫だよ」
「……ありがとう」
家近くまで彼女を送り届けた後、別れ際に今日何度目かの『大丈夫』という言葉を彼女に贈った。
その最後の言葉はずっと彼女の心の中に残り続け、揺るがない灯のように確かな勇気となっていった。
そして、空白の時間軸を自分の目で耳で確かめに戻る、最大の覚悟を彼女は決めた……。