白い月~夜明け前のその空に~
高校に入って友達など作る気もさらさらなかったけれど、ここで刻まれた時間には、ただ一人、会話をしたい、笑顔を見たいと思えた友人の存在がある。
そして、単に息抜きだけではなく、大切な存在を見つめ直すきっかけも、全てこの中庭だった。
どれくらいの時間が経ったのか分からないが、雲の流れが速くなった頃、彼は小柳がしていたように、自分も空を仰ぐ。
「…………さよなら」
流れる雲を目で追いかけながら、そう囁くのだった。
同じ頃、学校を出て通学路を歩く小柳の目には涙が浮かんでいた。
彼等はお互いに連絡を取り合ったりしたことはなかった。
これまでもずっと、あの中庭だけでしか交流していない。
誰も知らない、二人だけの穏やかな中庭での距離感が、彼等の全てであり、互いの特別な時間だった。