白い月~夜明け前のその空に~
「でもね、根はそんなに悪くは、ないと思うんだよね。前、具合悪い時あったんだけど、すぐ薬用意してくれたりね。お菓子もよくくれたり。そうそう、洋平さんも巨人みたいで近寄り難いけど、まかないの他になんと!従業員だけに特別デザートも作ってくれちゃうんだよー!すごいよね」
にこにこしながらそう話す彼女の後ろに、ぬっと大きい影が現れる。
「あんな目つき悪いのに、超可愛い盛り付けもするんだよー。びっくりしちゃうよー。あははは」
「あ、桃菜ちゃん……う、後ろ」
「え?何?ゆづちゃん。そうだ!今度ゆづちゃんも作ってもらいなよー。巨人様特製のうさちゃんサンデー!」
顔を引きつかせる優月の変化にも動じず、花が咲いたようにご機嫌な彼女の背後から、地の底で轟く低い声が。
「……誰が、巨人だと?」
「えっ」
びくっとし、ゆっくり河野が振り向くと、そこにはたった今話題に持ち上がっていた“洋平”が、睨み付けながら仁王立ちしていた。
「きゃあああああああ!!」
悍ましい虫でも出たかのように叫ぶと、彼女は優月にしがみつくのだった。