結びの魔法
僕は秀が心配だった。秀は生まれつき目が悪く視界がぼんやりとしか見えないのだ。視

力は0、1以下だという。そんな秀を一人置いていくのは少し気が引けるが、一人残らな

いとフロントに行った高梨さんに心配をかけてしまう。

「・・・大丈夫か?」

「平気だよ。それよりそちらさんはもうだめそうだぞ?」

「うぐぐぅ・・・。ぐるまなんできあいだぁ・・・。」

かすかに悪態をついている。僕は急いでトイレに向かった。

残された秀は細心の注意を払い辺りをうかがっていた。敵はいないことは分かっていて

も習慣で警戒せずにはいられなくなっている。ぼやける視界を目を細めて努力するがほ

んのしこしの変化ほどしかない。

「早く戻ってこい・・・。」

不安を言葉にして吐き出せば少しは楽になるかと思ったがまったくそんなことは無かっ


た。不安で不安で仕方が無い。普段しっかり者のように抜かりなくいるが、一人になる

と急に潮らしくなる。容姿に似合わずおろおろすることもしばしばある。

「おーい。おまたせ!」

「・・・。」

ぐったりした陽を抱えた感じに戻ってくる二人を見ると秀は心底安心する。気を抜けば

うっかり涙も漏れかねない。たぶん三人の中で一番心がもろいのが秀だと思う。

「遅い。」

「ごめんな。高梨さん戻ってきた?」

「いや、まだだよ。」

いつもの調子に戻って淡々と答える。

「なんかフロントでいろいろ話し込んで・・・る?」


回復したての陽はフロントを見てぴたりととまった。

「どうした?」

僕と秀は気になって覗いてみる。そこには確かに高梨さんがいた。そして説明と連絡と

いうよりも・・・なにやらフロントの女の人を口説いているようにも見える。

「・・・ナンパ?」


「そんな人には見えなかったけどね・・・。」

「さい・・・。・・・さいていだな。」

陽は強がった。

「最低な。」

それを僕が修正する。

「そう。それそれ!さっすが兄ィ!」


憧れのまなざし光線を僕に浴びせている。

・・・ただ僕のことが尊敬の意味で好きなのならばいいのだけど・・・、まさ陽に限ってホモ

ってことは・・・いや、考えたくも無い。


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