結びの魔法
向こうでは布は滅多に手に入らない。あまつさえ綿なんて高級品扱いなのだ。それを布

団いっぱいに詰め込んであるなんて、考えられないぜいたく品なのだ。次に何かを発見

したのは秀だ。

たんすの中には三人分の下着や服が、それぞれ三着ずつ用意してあった。

「俺らが今着ている服とはぜんぜん違うな・・・。吸水性、通気性がよさそうだ。」

秀は靴下を一組取り出し伸ばしたりはいたりして入念にチェックを入れている。

「もう驚きつかれた。ここではこれが普通なんだ、さすが発展途上国!」

二人して靴下のはき心地を確かめ合ってると、今度が陽が何か見つけたらしい。陽はリ

ビングの隣の小部屋担当だ。

「見てこの本!見たこと無いやつがたくさん。どれ読もうかなっ。」

陽はうきうきと本を選びだした。それに触発されて僕らも本を読み始める。そしていく

らか時間がたった頃、秀がふと気づいていった。

「・・・何か・・・忘れているか?」

その問いに一瞬皆で首をかしげる。そして僕が一番早く我に帰って時計を見た。まだ三

時四十五分だ。

「あっぶね~。危うく初日に遅刻するとこだったぁ!」

僕は汗をぬぐうしぐさをした。それに同感というようにほっとした顔で二人もうんうん

とうなずいている。

「備えあれば憂いなしとも言うし、早めに出とくか。」

「賛成。で、その『そなえあればうれぇーなし』ってなんだ?」

陽がまじめに手を上げて質問する。質問するときは手を上げる習慣がついてしまったら

しい。

「まあ、備えていれば万全だってことだよ。それよりも、もう五十分だぞ。そろそろ出

よう。」

「2分もあれば着けるだろうけどな。」

「でも『そなえあればうれぇーなし』なんだろ?」

完全に舌がもつれてしまっている。

「ほらまたそうしている間に時間が過ぎる!とっとと行くぞ。」

秀は早々とそう言っていってしまった。

「おいてくなよー!」

僕らは急いで後を追いかけた。その後一分としないうちに指定された部屋に着いた。

「かい・・・かい・・・。」

陽がやや上に目線を向けながら何かつぶやいている。目線の先には『会議室』と書いた

プレートが張ってあった。



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