あなたの手に包まれて
社長用モーニングセットを片付け、PC
に向かって雑務を済ませた私は時計が10:15を指したのを見て再び社長室へ。
コンコン…「失礼します」
「んー」
「社長、そろそろ新プロジェクト打ち合わせのお時間です。」
「んー ちょっと待っててねー」
PCモニタから視線を移さずに返答する社長。
「ちょっと一件電話いれてから出るね」
と言うと相変わらずPC画面を真剣な眼差しで見つめつつ、スマホを簡単に操作して電話をかけ始める姿を見て、一旦社長室を出て自分のデスクへ戻り、電話を自分のスマホへ転送する操作を済ませる。
「美紅ちゃん、お待たせ〜」
10:30から始まる打ち合わせに向けて社長専用のエレベーターでビル内を移動するだけなのだが、社長のお出ましはいつも開始時間ジャストだ。
私が社員証をかざしてエレベーターの扉を開くと、隣に立つ社長が開いた扉に手を掛け私をエレベーター内へと促す。
「ありがとうございます」
「ん」
本来なら秘書である私がそうすべきな筈なのに、社長が余りにもナチュラルに常にエスコートして下さるもので、最初っからこのスタイルが定着してしまっている私たち。
それにしても…
「社長…いつも思うのですが、あと少し早く行動を始めて頂ければ開始時間に間に合うのですが…」
「大丈夫大丈夫!ほんのり遅刻するくらいで僕は丁度良いんだよ〜」
ほんのりって……
「だってさぁ、僕が5分前行動なんてしちゃったら、みんなは15分前行動くらいしなくちゃ!ってなっちゃうでしょう?」
……なるほど。
そうなの。
この人はいっつもそう。
常識には囚われず、自分のスタイルでいつだってスマートに周囲への気遣いをみせる。