あなたの手に包まれて
✳︎ ランチタイム
お昼まで予定されていた新プロジェクト打ち合わせを一時間弱で終わらせた社長と共に社長室に戻ると、即PCに向かう社長。
「美紅ちゃ〜ん、午後は14:00からだったよね?時間たっぷりあるからランチ食べに出よう。五分で出掛ける準備しておいて〜」
画面を見つめPC操作をしながら声を掛ける社長。
なんだろ、なんか真剣に急いでチェックすることでもあったのかしら?
電話は転送のままで良いし、特に準備することもなかったので前室の自分のデスクの椅子に座り少し休憩して待つと、マイカーのキーを片手に妙な鼻歌まじりに社長が出て来た。
「るるっる〜♪ふふっふ〜♪みくちゃんとラ〜ンチ〜〜♪」
……なにその鼻歌、はぁ…。
高さ変えて何度も繰り返してるし…
黙って仕事してればかなりのイケメン社長なのになぁ…なんとも残念なキャラなのよね…。
とか失礼なことを考えながら、しっかり外国産の落ち着いたラグジュアリーなセダンちっくな四駆ワゴンの助手席にエスコートされる。
運転し始めてもまだ歌ってるし……
本当に残念なキャラよね…。
「美紅ちゃん!ハモってきてもいいんだよ?」
「ハモりませんし、そもそも歌いません。」
「そぉ?るるっる〜ん♪ふふっふ〜ん♪みくちゃんとラ〜ンチ〜♪・・・あ、電話だ。あれ?親父?なんだろ…」
運転中の社長から無言でスマホを取り上げ、イヤホンマイクを繋いで耳にイヤホンをつけてあげる。
「ありがと!…もしもし?親父?ん、どした?…うん。……うん。………」
珍しいなぁ。お昼休みとは言え、勤務時間中に会長からお電話だなんて。
しかも社長のリアクションを聞く限り、そんなに急ぎの話題でも無さそうな雰囲気。
「えぇ?はぁ?!無理!それは無理だから!!………そんな物に頼らなくても会社は大丈夫だろ??とにかく無理だから!!!」
あれ?雲行きが急に怪しくなってきた?
「…いや、まだそんな段階じゃねぇんだよ…でも!とにかくその件は無理だから!!…え?ゆっくり改めて話すまでもねぇよ!断る!!じゃあな!」
最後はかなり乱暴な口調で言い切ると、恐らく一方的に通話終了ボタンを押してスマホを私の膝の上に置いてきた。
「もうよろしいんですか?」
「ん。」
一応伺ってみたが、本当に通話は終わったようなので社長の耳からイヤホンを取ってあげる。
なんだったんだろ…
「美紅ちゃん……」
なんだか少し弱々しく私を呼ぶ声に思わずドキっとして返事を忘れて社長を見てしまう。
「ん…っと、やっぱいいや。」
…なんなの?
どうしたのよ…気になるじゃない!
しかもそのままコインパーキングに停めるまでの15分間ほど、二回くらい薄っすらとため息が聞こえる以外は無音で、急に病気になったのかと思うほど静まりかえってしまった社長。
それなのにサッと車を降りると助手席側に回り込み、いつもと同様にドアを開けて手を差し伸べてくれた。