佐々倉のカノジョ。
「アオイ、ダチ来たから帰ってくれるか」
「んー、あたしも夜仕事だから、帰る気だったわよ」
俺らが話している間に、服は着直していたらしい。
三村アオイ、社会人で、俺がよく相手をするひとり。
社会人つっても、夜の仕事やってる"お姉様"だけど。
「じゃあまたね、嵐」
ちゅ、と軽い音をたて、俺の頬にキスをして家を出ていく。
「あらツルくん、友達ってキミか」
「おっす、アオイさん」
「またねぇ」
そんな会話が聞こえてくる。
ほんと響くなここ。
そういやツルとアオイは顔見知りだったか。
「また美人になったなー、アオイさん」
菓子の入った袋をガサガサ言わせながら、部屋に入ってくるツル。
「アイツは元からあんなんじゃね?」
「そうかぁー?羨ましすぎるぜ嵐、ちくしょー」
「お前は彼女できたのかよ?」
ツルは高校入ってからずっと彼女彼女うるせーからな。
「俺、璃乃ちゃんにもっかい会いたいなぁ~っ」
「にやけながらこっち見んな。きもい」
「あんだとこら。だってわかるだろ、超かわいいじゃねぇか」
「…」
なぜか俺は、璃乃に会ったこと、家に行ったことを言うのを躊躇った。
別にやましいことは、ない、はず。
「俺この間、会ったけど」
「なにっ!?どこで!?」
「汚ねぇな、ポテチ飛ばすな」
ファミレスでバイトしてたなんて言ったら、速効会いに行きそうだよな。
いや、毎日通いそう。
「あ、ゴメンゴメン、んで?」
「商店街だよ」
「ふ~ん、…お前なんか隠してね?」
じっ、とツルに瞳を覗き込まれる。
なにコイツ、こんなときに限って勘が冴えてんの。
「別になにも?」
「ならいいけど…。お前に狙われちゃ、勝ち目ねぇからな」
「そうだな」
「ちっ、ムカつくやつだぜ、ほんとよー」
「それとツル、菓子のカス、ちゃんと掃除しろよ」
「なんでお前そーゆーとこだけ几帳面なの?」
「ばかだな、お前」
俺は"あのこと"を思いだして笑いながら、ツルに言った。
「いらねぇもんはさっさと片付けねぇと、後が面倒になるからな」
「はっ、同感だな」
珍しく真剣な目をしながら、ツルもニヤリと笑った。