恋をしようよ、愛し合おうぜ！

そうして仕事を終えた野田さんが、段ボールを抱えて、わが城・５号室へやって来たのは、夕方の７時を少し過ぎた頃だった。

「ありがとう」
「邪魔するぜ」と野田さんは言いながらローファーを脱ぐと、段ボールを抱えて中へ入ってきた。

野田さんはあたりをキョロキョロ見渡すと、「ここ置いていいか」と聞いて、足元のスペースを顎でしゃくった。

「あ。どうぞどうぞ！」
「・・・おまえ、思ったより物持ってねえな」
「そう？今日はまた少し処分したものもあるし」と言いながら、野田さんがこの部屋へ上がったのは、今日が初めてだと気がついた。

それで野田氏は、さっきからキョロキョロと部屋を見ていたわけか。

「別居してまた東京へ来たときと、ここに越して来たとき、かなりの持ち物を処分したの。ここ狭いから、そんなにたくさん物を置けないって現実的な理由もあったけど、それ以上にそんなに物必要ないよねって思ったのが、たくさんの持ち物を処分できた一番の理由かも」

という片づけの心理的な面や私の実体験を、時々セミナーでもお話ししている。

「なるほどなー。こんくらいの量だったら、１０箱くらいで足りるか」
「うん。大丈夫だと思うよ」
「で、これが幸太が作ったフックか」
「あ、うん。で、この棚も。それからこのテーブルも作ってくれたし」
「すげーな。めちゃ器用なヤツじゃんか」
「そうでしょー？この風景画と果物の絵は、クリスティーナが引っ越し祝いにって額つきでプレゼントしてくれたの。ついでに言うと、幸太くんが作ってくれたものも、全部幸太くんからの引っ越し祝いだったんだー」
「マジか」
「うん。全部廃材を使って作ったものだから、材料費かかってないってことでね。絵も含めて、壁に取り付けまでしてくれたし。みんなで壁をペイントしたのも、すごく楽しかった」
「いい色だよな。適度に明るくて、あったかい感じがする」
「ありがと。最初ね、この壁は全面コバルトブルーだったの。キレイな色なんだけど、この空間にはちょっと寒々しく思えて。それで最初は白に塗り変えたけど、まだ寒々しい感じが強かったから、サンドベージュに白を混ぜて上塗りしたの」

新たな色を作って、一心不乱に壁に塗る作業は、とても単調だったけど、壁に上塗りをするたびに、私の心も自分が創り出した色に上塗りされているような気がしたのを、今でもよく覚えている。
部屋づくりという作業をしたことも、私の人生を見つめなおし、新たに建て直す、いいきっかけになったことは間違いない。

「野田さん、何か飲む？」
「いや、いい。それよか腹へった。メシ調達しに行こうぜ」
「はぁーい」
「俺が箱持つから、おまえはお泊りバッグ持て」
「だから、“お泊り”って部分を強調しないの！」

など言い合いしつつ、結局野田さんが重たい箱を２つ重ね持ちし、私は一番軽い箱一つと、お泊りセットが入ったバッグを肩にかけて、アパートを後にした。

そのとき野田さんが、アパートに住める３月末までに私が戻ってこなければ、私があげたインテリア雑誌を見ると決めていたと教えてくれた。