恋をしようよ、愛し合おうぜ!
結局何も買わずにデパートを出た私たちは、車内でもしばらく無言だった。
その空気が何とも重たく感じた私は、耐えきれずに俯く。

・・・これ、喧嘩って言うのかな。
でも理由が分かんないし。
もしかしたら野田さん、私のこと嫌いになって、もう別れたいとか思って・・・。

ダメ。せめて今は泣かないようにしなくっちゃ。

「あの・・私、やっぱり今日はアパートに帰る・・・」
「やべーんだよ」
「・・・・・・は、い?」

そう言った野田さんの声は、ホントに切羽つまってる感じがしたので、つい私は運転中の野田さんの横顔を見た。
すると端正な横顔の眉間に少々しわが寄ってるように見える。
やっぱり「やべー」のかな。

って何が?
トイレ行きたい、とか・・・?

「え。っと、なにが・・・」
「おまえが笑った顔見ただけで、俺イきそうになっちまった」
「・・・・・・はあ?!もしかして、それでラザニア戻してひとりでサッサと歩いてたの?」
「おう。パンツ濡れそうになったしな」
「ブッ。ちょ・・・と野田さ・・・んっ!」

ああダメ。
さっきまで私は泣くのをこらえていたのに、今はこらえきれなくてゲラゲラ笑っている。

「なんだよ。あんなとこであんな顔する方が反則だろ。それによ、どっちみちラザニアは食えねーんだし」
「な・・・もうやめて・・・ハハハッ!」
「おまえが煽ってんじゃねえか。それになんだよ、あの笑い声は。ますます惚れるだろ!だからなっちゃんよ、俺今夜は帰さねえから、ここで帰るとか、ぜーったいありえねえ!」
「プ・・・あのね、野田さん」
「なんだよっ」
「蕁麻疹、消えたよ」
「・・・良かったな」
「野田さんのおかげだよ」
「なんで。治りかけてたんだろ」
「うん。でも一晩で完治したのは、ときめきホルモンが活性化してくれたおかげだもん」
「はあ?なんだそれ」
「恋するパワーは偉大だってこと。私、隣の運転席にいるカッコいい男に恋してるって、あなたも知ってるでしょ?」
「・・・マジかよ。参ったなあ。なつきー」
「はい?」
「腹減ってるか」
「うーん。少し・・・」
「じゃあ後でなんか買ってきてやる。それまでガマンしろや」
「・・・なんの後か、一応聞いてもいいですか」
「ここじゃあ言えねえ。詳細はうちでしっかり教えてやる。なっちゃん限定の実践だ」
「ぶ・・も、もう野田さん面白すぎっ!!」
「だーっ!今おまえに触れられると、マジでパンツ濡れるからよ。ベッド行くまで触んなっ」

という野田さんの言い方にはユーモアがたっぷり含まれていたけど、その声は本当に切実に聞こえたので、私は野田さんに言われたとおり、ベッドに着くまで、いや、「実践」が始まるまでは、野田さんに触らないことにした。

じゃないと、私だって・・・。

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