幻想月夜
淡夢の時間
 青年とはじめて出会った日からずっと――少女は、スケッチブックにウサギを描いてました。



 少し開いた窓からはキンモクセイの香りが舞い込んで。



 淡いエメラルドグリーンのじゅうたんに散らばるたくさんのスケッチブック。



 少女の部屋にあるものはスケッチブックと色鉛筆だけ。



 あと、青年がくれた絵本。



 少女が住む家は大きいけれど、少女はいつもひとりでした。



 両親はいつも家にはいません。



 言葉を失った少女が、紡げる言葉など、何一つありませんでした。



 両親は自分のために働いているのだから。



 少女はいい子でした。



 いつも笑顔で両親の帰りを待つ、いい子。



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