不機嫌なアルバトロス
顔を抑えているタカに吐き捨てるようにそう言うと、今度こそ背を向けて歩き出す。


さっきの入り口のおにーさんが呆然と見ている脇を抜けて、外へ出た。




憲子、置いてきちゃった。



自分で何処に向かって歩いているのかもわからないまま、がむしゃらに足を動かした。


無意識に袖口で唇を何度も擦りながら、涙がぼろぼろと零れだす。


不可抗力じゃない。


自分の考えが足りなかった。


タカだけが悪いわけじゃない。


だけど。




『す、好きでもない人と、できるもの…、なの、かなって…』



以前自分の吐いた台詞が思い出される。


『あなたはねぇっ、好きでもない人とあんなことこんなことできるんでしょうけどっ、わっ、私にはそういうの、信じられませんっ』



できるじゃん。



ばかばかばか。



自分の馬鹿。


私の馬鹿。





「ふっ…うー」




私はどうしても子供みたいな泣き方しかできないらしい。



めそめそと一人、一定の間隔で街灯に照らされている道を歩く。



さっきまで唇を拭っていた袖で、今度は涙を拭いた。


じわじわと温かい雫が布に染みこんで、あっという間に冷えていく。



嫌なのは。



あのシーンを見られて、こんなに嫌なのは。



会えないまま、飛び出してこなくちゃいけなくて、こんなに辛いのは。




取り返しがつかないくらいに。



彼の事が、好きになってしまったからだ。


それ以外の理由は、他にない。





「ひっ…く…ひっ」





涙の間に息を吸い込むと、雨の匂いが、少し、した。

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