不機嫌なアルバトロス
ちょっとのんびり朝ごはんして、洗濯掃除を済ませると時計の針は10時少し前を指している。
「これでいっかな。」
いつもは垂らしてある髪をシュシュで高くまとめ、あったかいマフラーを巻いて、グレーのコートを羽織った。
鏡を見ながらシャネルのルージュを引く。
お気に入りの一本は、自分本来の唇の色に一番近いものを選んでもらったもので、不自然じゃない上、とても可愛い色なのだ。
財布や携帯、エコバッグなど持ち物をチェックしてハンドバッグに詰めると、黒いロングブーツを履いて家を出る。
「とりあえず…帽子、欲しいな」
鍵を閉め、私はひとり呟いた。
外出の際に、ふわふわで温かい帽子が必須な気がしているからだ。
特に今年の冬は。
スーパーは荷物が多いから、一番最後に寄ることにして。
とりあえず、駅に出るか。
相変わらず寒い北風から顔を隠すようにマフラーに埋(うず)め、歩き出す。
これだけ寒いと、頭の中も冷えて空っぽになる。
でも気がつくと、いつも中堀さんのことを考えて、胸を苦しくさせている。
悪循環。
深入りはしない、って決めたのにも関わらず、ドツボにはまった感じ。
陽の光を受けて透き通る髪の感触が、まだ指先から消えてくれない。
同時に、宏章に掴まれた肩に出来た痣が痛む。
以前の自分なら、喜んで宏章とまた付き合ったんだと思う。
寂しさを埋め合わせる為に。
なのに今自分が、そんな考えを微塵も持ち合わせていないことに気付く。
多分、中堀さんと出逢ったからだ。
あの人が良い、と想ったからだ。