不機嫌なアルバトロス

「でも、さすがに、あの夜のタカのあれはないでしょう?タカもよく零相手に喧嘩を売ったよね。」



一人ムフフとほくそ笑んでいる私に気付かないまま、トーマは続ける。



「あれから、零はどうしたのかな?もうカノンちゃんにちょっかい出すの、止めたかな?」




またしても、話を振られて若干咽(むせ)た。




「あ、ごめんね?ゆっくり食べれないよね?」




眉を下げて、こちらを見ているけれど。


ぜ、絶対わかってる気がする。

というか、私の反応を見て、楽しんでいる風だ。

完全にからかわれている。


それとも、天然?


私にはイマイチトーマさんの性格がつかめない。


「いや、あの、、その…普通です、、ふつう」




グラスに注がれた仄かにミントの香りがする水を飲んで、平常心を装いつつ答えた。




「本当に?あれでも、零はひかなかったってこと?」




予想外の返事だったらしく、トーマは心底驚いている顔をしている。




「…益々面白いね。」




独り言なのか、私に言ったのか、わからないけれど、呟くとトーマは席を立った。




「これからまた用事があるから、俺はもう行くけど。カノンちゃんはゆっくりしてってね。あと、たまにはクラブにも顔を出してくれない?タカが喜ぶ。」




そう言って、トーマはテーブルの脇をすり抜けて行こうとした。




「あっ、ご馳走様でしたっ。あの、でも、私、もうクラブには行けません…」




その背中に届くようにと、私は少し声を張り上げる。



「え?」



どうやらちゃんと届いたようで、その証拠にトーマが振り返った。

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