不機嫌なアルバトロス
「…いけないってどういうこと?門限でもできたの?」



少し茶化すように、トーマは笑う。



「いやっ、そういうのじゃないんですけどっ…中堀さんが…」



私が言いかけると、トーマは途端に真顔になった。




「…零が…?」




「あ、と…はい。」



その変化に、言ったら不味かったかな、と思うが、もう遅い。



「…クラブには、、もう来るなって」



トーマが目を見開いたのがわかる。



そして暫くの沈黙の後。



「……へぇ」



トーマはそう言うと、またにこっと笑う。



「じゃぁ、仕方ないね。」



ひらひら手を振って、何事もなかったように、トーマは店を出て行った。


「なんだろ…?」


私は一人、トーマが出て行ったドアを眺めつつ、呟く。


何かが引っかかる。


それが何かはわからないけど。



とりあえず。



「いただきまーす」



目の前の少し冷めてしまったおいしそうなゴハン達。


待たせてしまってごめんね。


やっと、私は何も気にせずに、フォークを動かして、美味しい料理を口に運ぶことが出来た。



自分の知らない所で何かが、動き始めていることに気付くことのないまま。


私は悠長に、料理を堪能していた。


ピリリ辛いスパイスが、隠されていることも知らずに、中堀さんにとって自分は特別なんだと、甘い余韻に浸っていた。
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