不機嫌なアルバトロス
二人で、お店を物色しながらぶらぶらと当てもなく歩く。




「ちょっとあったかい帽子が欲しいなって思って。」




店頭に飾ってあるマネキンが帽子を被っているのを見つける度に、自分の頭にのっけてみるが、どうもしっくり来ない。




「まぁまぁ、帽子なんか後回しで良いからさー、こないだの金曜日、どうだったの?」




本当にどうでもよさそうに私の帽子選びを横で眺めながら、憲子が訊ねる。


憲子はこの話がしたくて、私に会いに来るつもりだったらしいから、仕方ないんだけど。


何より私はお腹がいっぱいだから、座って甘いものでもというわけにはいかないし。



だけど、こういう話は何かをしながらでは、上手くできない。



「んー、あの日、私さー…熱、出しちゃっててさぁ…」



被った帽子をマネキンに戻すことに悪戦苦闘する。


「え、熱?やっぱりまだ治ってなかったんだー。雪降ったし、寒かったんじゃん?」



憲子がそんな私から帽子をひったくって、マネキンにすぽっと被せた。


中々どうして、上手いものだ。



「私馬鹿でさぁ、会社から歩いてったの。」



「本当に?馬鹿だねぇ。生粋の馬鹿だ」



「…五月蝿いな。熱でどうにかなってたのよ。」



「…で?歩いてってどうしたの?」



話ながら、今度は自然派の基礎化粧品のお店で足が止まる。



「えーと…歩いてって…えと、あ、そう。中央公園で口論している二人に会って…」



ここで私は酒粕を使用した化粧水を手にとって黙る。



「もう!わかった!花音!」



痺れを切らした憲子がついに私の肩をがしりと掴む。



「いたっ」



「え?」




顔をしかめて、肩をさする私に憲子が意外そうな顔をした。

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