不機嫌なアルバトロス
憲子の家の最寄り駅は私の家とは路線が違うので、地下鉄に乗る必要がある。
いつもとは違う方向に歩き出しながら、そういえばクラブも比較的ここから近いんだよなぁ、なんて思いながら。
ざわざわする胸に、違和感を覚える。
「?どうかした?」
ペースを落とした私を振り返って、憲子が首を傾げた。
「…ううん。なんでもない」
自分でもわからない何かを振り払いながら、私は返事をする。
「ふーん?」
憲子も別段気にした風もなく、前に向き直った。
「そーいえばさぁ…」
今度は何かを言いかけた憲子の動きが、止まった。
俯き気味に歩いていた私は、突然停止した憲子に目をやる。
「?何…」
憲子が真っ直ぐ視線を向けるその先を、つられて辿った。
「あ…」
ここから少し離れた所にあるクラブ。
その入り口には少しの段差。
そこに座る、、、金髪の彼。
カーキの深い帽子を被っているけれど、間違いない。
そして―
今しがた。
その首に抱きついた、黒髪の、、、、女の子。
私の知っている本当の彼と。
私の知らない女の子。