不機嫌なアルバトロス
その瞬間、首に巻きついてきた葉月の腕。



日曜日の光景が、脳裏に過ぎった。




「…どうしたの?」




数センチ先で、俺の異変に気付いた葉月が、不思議そうに瞼を開いて見つめる。




そんな葉月の肩を少し強く押しのけた。




「わり。やめとく」




ぽかんと口を開けたままの葉月を置いて、下に降りようと出入り口に向かった。



―なんだ?



ここ数日感じている自分への違和感に、若干の焦燥感が加わる。






「カノン!!!!」





ちょうどドアノブに手を掛けた瞬間に、背後から叫ばれたその名前を聞いて、思わず足を止めた。



「って、誰なの?零の…本命?」



こないだの日曜日。


俺が葉月を置いていったことを、そしてその時の状況を、葉月はよく覚えているらしい。



「まさか。」




振り返らずに答える。



「嘘!ここの所、零なんか変だもん!絶対女絡みでしょ!」




口を尖らせて葉月が抗議しているようだが。




「葉月にカンケーない。」





そう言った声が届いたか届かなかったかはわからないけど、大人しくなった葉月。





「じゃーね」




俺はドアノブを回して、味気ない階段の手すりを掴んだ。
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