不機嫌なアルバトロス
―なんで女っていうのはいちいち詮索するんだろうな。
葉月の指摘に若干の苛立ちを覚えつつ、足元にくわえていた煙草を投げ捨て、靴で踏んだ。
カンカンと音を立てて鉄の階段を下り、重たい扉を開ければ、直ぐに人の賑わう声や、音楽が聴こえてくる。
「お、俺の影武者が頑張ってる」
クラブの二階は、基本関係者以外立ち入り禁止になっているのだが、そこからは会場全体がよく見渡せる。
鉄の手すりに頬杖をつきながら、暫く代わりのDJが演奏しているのを見ていた。
「こんなとこにいたのか」
ふいに背後から声がして、振り向くことなく応える。
「今日は帰ろーかな。」
「おいおい、まじかよ?せめてファンの子たちに顔だけでも見せてやったら?泣いてる子、いたよ?」
俺はキャップを深く被り直し、首を振った。
「いや、面倒」
そう言い捨てると会場を通らずに外へと出ることができる裏口に向かおうとした。
「何々?なんかちょっと不機嫌じゃん」
「…俺はいつもこうなの。燈真とは違うから。じゃ、ね。」
燈真の返事は待たずに、俺は足早に階段を駆け下りる。なのに、声だけが追いかけてくる。
「俺があんなこと言ったから、怒ってるのー?」
「…うるせーよ」
届かないと分かっていながら呟いて、外に出た。
相変わらず、空には星が綺麗に光っていて、空気は冷え冷えとしていた。
屋上で見た時よりも、空は高くなって、自分がよりちっぽけに感じる。
―俺は夜の方がやっぱり好きだな。
夜は輝く月と星が主役だから。
空は真っ暗で、何も見えないから。
そのことを再確認するような、綺麗な星空だった。