不機嫌なアルバトロス
あてもなく歩き出しながら、あの日の事を思い出した。
―遊んでそうな女だ、と思ったんだよな。
志織のことでどうやったら金を引き出せるかと思案していた時のことだ。
よく歩道橋の上で煙草を吸いながら、道行く人を観察していた。
朝、大体人は無防備な顔をしている。
一心不乱に会社に向かう姿は、一見兵士のようだと思うのだが、その表情は疲れ切っている。
だけどたまに朝っぱらから一人でにやけているのも居て。
その中の一人が、櫻田花音、だった。
決して人目を惹くようなタイプではないが、悪くはない。
男ウケする部類だろう。
ただ、にやけている。
一人で。
―変な女。
大方、彼氏でも出来て、色んな出来事の余韻を噛み締めているんだろう。
必死で、笑いを噛み殺そうとして、マフラーで隠している。
何がそんなに嬉しいんだか。
上からその様子を呆れながら見て、煙を吹きかける。
女って、わかんねぇ。
男に何かしてもらったら、喜んで。
何かされたら、哀しんで。
いずれ、あんたも泣く羽目になるよ?
今の内、せいぜい喜んでなよ。
本当に自分勝手だけど、そんなことを思っていた。