不機嫌なアルバトロス
久々の懐かしい場所。


そこでの演奏はまずまずで、気分が高揚しなかったと言ったら嘘になる。


昼間の出来事なんかすっかり頭から抜けて、夢中になって目の前の事に没頭していた。




「お疲れ」



2時を少し過ぎた頃、演奏を終え、他のDJや客に声を掛け合いながら、引き止められては軽い話をしたりして。


燈真にボンベイサファイアのロックでももらおうかな、とカウンターに目をやった、ら。


―あれ?


俺は一瞬視界の先の出来事を理解することができなかった。




カウンター前に立ち上がる男。


その片方は崇、だ。


んで?


その隣のカウンターに座っている女、は。



…昼間に俺を殴った女じゃないか?


あいつ、こんなとこで何やってんだ?



自然と眉間に皺が寄るのを感じながら、俺はカウンターにゆっくりと近づく。



「カノンちゃん?」



甘ったるい気持ち悪い声で、崇が名前を呼んだのが聴こえる。


べろべろに酔っ払った感じの女。


まさに、あれは崇の格好の餌食だ。




おい、昼間の時みたいに、崇のこと、殴れよ。




「行こう」




なのに。


どこか、切なげに瞳を揺らすと、手を引かれて頷こうとしている櫻田花音。





「―う「だめ」




驚いた顔をする燈真と崇に気付かないフリをしながら。




あんた、やっぱり阿呆な女だよ。




細い腕をしっかりと捕らえ、心の中で毒吐いた。






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