不機嫌なアルバトロス
キスの理由ータイムリミットまであと4日ー
「一哉?」
架空上の人物の名前を呼ばれて、自分のことだと気付くのに、一瞬遅れた。
「―え?」
「どうしたの?ぼーっとしちゃって。グラス、もう空よ?」
見ると、向かいの席で志織が拗ねたような顔をして、俺を見つめている。
「あぁ…ごめん。気付かなかった。ちょっと、酔ったのかな。」
少しの焦りを取り繕うように言い訳してみると、益々志織は口を尖らせた。
「嘘ばっかり。一哉がお酒に強いこと、知ってるんだから。酔い潰れた経験も無い癖に。」
これは予想以上にお姫様の御機嫌を損ねてしまったらしい。
「俺だって、軽く酔うくらいはするよ。でも、ごめん。ちょっと考え事してた」
仕方が無い、折れるかと謝罪するも。
「…あとちょっとしか一緒に居られないのに。」
残された時間の短さが、彼女の気持ちに拍車を掛けているらしい。
本当におかしいな。
俺は自分自身で改めて思う。
今まで、自分につけた名前を忘れたことなど一度もない。
なのに。
『一哉』が自分じゃないと感じるなんて。
珍しいにも程がある。
それは―
この街に帰ってきたのが原因だろうか。
『アオ』と呼ばれるような気がするのは。
それが本当の自分の名前だと感じるのは。
もし、そうだとしたら。
この街には長く居られない。
架空上の人物の名前を呼ばれて、自分のことだと気付くのに、一瞬遅れた。
「―え?」
「どうしたの?ぼーっとしちゃって。グラス、もう空よ?」
見ると、向かいの席で志織が拗ねたような顔をして、俺を見つめている。
「あぁ…ごめん。気付かなかった。ちょっと、酔ったのかな。」
少しの焦りを取り繕うように言い訳してみると、益々志織は口を尖らせた。
「嘘ばっかり。一哉がお酒に強いこと、知ってるんだから。酔い潰れた経験も無い癖に。」
これは予想以上にお姫様の御機嫌を損ねてしまったらしい。
「俺だって、軽く酔うくらいはするよ。でも、ごめん。ちょっと考え事してた」
仕方が無い、折れるかと謝罪するも。
「…あとちょっとしか一緒に居られないのに。」
残された時間の短さが、彼女の気持ちに拍車を掛けているらしい。
本当におかしいな。
俺は自分自身で改めて思う。
今まで、自分につけた名前を忘れたことなど一度もない。
なのに。
『一哉』が自分じゃないと感じるなんて。
珍しいにも程がある。
それは―
この街に帰ってきたのが原因だろうか。
『アオ』と呼ばれるような気がするのは。
それが本当の自分の名前だと感じるのは。
もし、そうだとしたら。
この街には長く居られない。