不機嫌なアルバトロス
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「あ、零。今日は来ないのかと思ったぜ」
ルナに着くと、カウンターで崇が既にかなり飲んでいた。
今日も隣に女は居ない。
「―しかも正面玄関から入ってくるとか、珍しいね。」
向かいで燈真がシェーカーからグラスにカクテルを注ぎつつ、にやっと笑った。
「ジンロック、ちょうだい。」
予定してた時間より早く着き過ぎて手持ち無沙汰になった俺は、カウンターで飲み直しを考える。
「あーあー、カノンちゃんなんで来ないんだろうー?!」
隣で突然、崇がカウンターに突っ伏した。
その横に、俺は無言で腰掛ける。
崇は軽い男だ。
顔は悪くないから、とりあえず声を掛ければ安い女は大概食える。
崇にとって女を見れば口説くというのは当たり前のことで、俺のファンや、他人の連れも例外ではない。
誰か一人と付き合うのではなく、不特定多数の女とよろしくやっている。
特にクラブのこのカウンターで酒を飲む女は全部餌食、だ。
それが、俺の知る、崇だ。
なのに。
「カノンちゃーん…」
情けない声で、酒を呷っているこの男は、誰だ?
「…好きな男に、クラブに行くなって言われてるのかもよ?」
俺の前に、燈真がジンを出しながら、意味深に笑う。
―こないだから、こいつなんなんだよ。
その視線を無視しながら、俺はグラスに口をつけた。