不機嫌なアルバトロス
―あの日。
まだ、外は暗く、しとしとと雨が降る朝。
何故か俺は、櫻田花音の携帯を鳴らした。
呼び出し音が響き、直ぐに伝言案内に変わった。
内心舌打ちをしていると、自分のそれが震えて。
微かな期待と共に表示を見ると、志織からだった。
この時間の彼女との逢瀬は珍しいことではない。
櫻田花音を見つけたあの朝も。
志織の家で過ごした後だった。
夜明けの時間は、俺の最も苦手な部分で。
志織の我が儘に付き合う時は、大体外に居る時だ。
でもなんで。
志織の家からの帰り道、ついでだろうがなんだろうが。
櫻田花音の会社まで行ったんだろう。
自分でも、気が狂っていたとしか思えない。
何のメリットもない。
『あら、櫻田さんのお兄様、ですよね?』
受付に着いた瞬間に、言われて苦笑する。
自分の張り巡らした嘘だが、下心のある人間はこうして記憶してくれる。
『いつもお世話になっています。あの…大変申し訳ないのですが、妹に急に呼び出されたのですが、途中で携帯が繋がらなくなってしまい―もし可能でしたら彼女をここに呼んでいただけませんか?』
呼び出して、何をするというのか、自分でも無計画だった。
素晴らしい笑顔で頷く受付に、同じように笑みを返しながら、自分に戸惑う。
俺は一体何がしたいんだと。