不機嫌なアルバトロス

『…櫻田さんのお兄様がいらっしゃっているのですが…はい…えっ、ちょっ』



受付が電話を繋いでくれている様子がおかしい。


相手から切られてしまったのか、受付は肩を落として俺を見た。



『あの…ちょっとよくわからないのですが…何故か櫻田さんの上司の方が…直接顔を見て話す、、と…』



さすがに笑顔が引き攣った。


意味不明。


なんで、あいつじゃなくて、上司が来んの?



数分後、その理由が判明する。





『あぁーらぁ、初めましてぇ。椿井と申しますぅー!』




やたら唇を強調しているギラギラした女が登場。



受付が驚愕の表情をしているのを余所に、俺はもう一度手短に説明する。




『そうだったんですねぇー!お優しいお兄様で、感激いたしますわ!』



オーバーなリアクションでくねくねするこの女。



俺、嫌い。



『でもぉ、櫻田は今日お休みなんですぅー』




『え…?』



『風邪ひいたみたいですよぉ』




馬鹿で阿呆でも風邪ひくのか。



変に納得しながら俺は頷く。




『具合が、悪かったんですね。』



『お兄様もぉ、お仕事あるんでしょうにぃ、あの妹さんではきっとご迷惑ばかりお掛けしてるんじゃないですかぁー?』




『…いえ、こちらこそ、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。仕事の合間にでも、覗きに行って見ます。』




名残惜しそうな視線を送る受付にも感謝を伝えて、俺は会社を出た。



俺がこの会社に、櫻田花音と兄妹だと嘘を広めさせたのは、万が一あいつが逃げようとした時、自由に会社に出入りできる環境を整える為だ。


今回の様なこんな意味のないことの為では決してない。




『…帰ろ…』



急に馬鹿馬鹿しくなって、俺は家に帰った。
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