不機嫌なアルバトロス
「…ところで、零に来るなって言われてたのに、どうしてまたここに来たの?」
からかいを含んだような声ではあったが、燈真は笑っては居なかった。
急に一度和らいだ筈の空気が、舞い戻る。
その言葉に籠められた意味がなんなのか、わかりかねた。
「そ、れは…」
「もしかして崇に会いに来たの?」
「ちがっ…」
言われて気付く。
自分がどうしてここに来たのか。
今更ながら、気付く。
今、一体何時なんだろう。
あれからどのくらいの時間が過ぎたんだろう。
窓も何もないこの部屋には、時間を知る術はない。
「今、、、何時ですか??」
果たして今は【今日】なのか、【明日】なのか。
【昨日】なのか。
わからない。
燈真の目が、宙を彷徨う。
「崇に会いに来たんじゃないってことは、、、俺ってわけでもないよね?」
私の質問に答える気がないのか、それとも私が質問に答えてないからなのかはわからないけれど、燈真は自分の話を続ける。
「っていうことは…」
考えるように巡らされていた視線が、再び私と重なり合う。
「零に会いに来たの?」
初対面の時に纏っていた暖かさは、最早残っていない。
葉月と兄妹なんだと聞いても、ピンとこなかったが、今なら頷ける。
それでも、どうしてそれが、零に、中堀さんに繋がるのかがわからない。
私が一体なんだというんだろう。
「…そうだとしたら、、何か問題があるんですか?」
思いっきり眉間に皺を寄せて、私は睨みつけるように対峙した。
「…花音ちゃんはさぁ…零のことが好きなんだよね?」
かわされたと同時に、つきつけられた真実。
自分の意思とは裏腹に、顔に血が上ったのがわかった。
「あ、やっぱり図星?」
自分の浅はかさに唇を噛んだ。
理由はわからないけど、この人に、この気持ちを知られることは、賢明ではないだろう。
後悔しても、もう遅い。