不機嫌なアルバトロス
バタン


閉じられたドア。


中堀さんも運転席に乗って、遮断された外気。



車でなら、道さえ混んでいなければ、家まで30分で着いてしまう。



助手席に座るのはくすぐったい気持ちだけれど、うかうかはしていられない。




ちょっと、気持ちを引き締めなくちゃ。




「!」



ちらっと横を見ると、中堀さんとばっちり目が合った。



助手席は心臓に悪い。


なんてったって運転手の隣だもの。


こんなに近いんだもの。



ドキドキしながら、無言で見つめていると。





「シートベルト、してくれる?」




「!!!!…すみません…」




中堀さん…笑いを噛み殺してる。




…駄目だ。



完璧に舞い上がっちゃってる。



恥ずかしさから俯きつつ、カチリとシートベルトを差込口に入れた。



車窓から道路に引かれた白線が見える。




「あの…帽子…ありがとうございました」




窓から目を離し、運転している中堀さんの横顔に言う。




「ああ、あれ。…どこがそんなに気に入ったの。」



どこがって…。


私は返す言葉に窮する。



だって、あれは無地だし。


キャップだし。



中堀さんが被っている時は格好良いけど。


私には実は全く似合わない。


もっと言わせてもらうならただの口実だったし。


本来なら私が欲しかったのはニットキャップ、とかで。


あったかいやつ。


中堀さんのキャップみたいなのじゃ、ない。




「つ、ツバの広さ…」



仕方なくそう言うと、



「…へー」



中堀さんが首を少し、傾げた。



そうですよね。私だってそう思います。


自分の蒔いた種とは言え、痛過ぎる。

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