不機嫌なアルバトロス
「―全部、、夢だったら、いいのにな。」
ほとんど誰も居なくなったオフィスで一人、デスクに肘をついて呟いた。
中堀さんとさよならしたこと。
中堀さんとキスしたこと。
隣に居れたこと。
いや。
もっと、前。
中堀さんと、ぶつかって、出逢ってしまったこと。
今となっては、夢のようだけど。
その夢は、余りに胸を締め付けるので、忘れてしまうことすらできない。
成す術がない。
思い返すことも、忘れることもできない。
ただ、頭の奥に、間違いなく、ある。
本気で、好きだった、人。
もう、暫くすれば。
時間と共に、気持ちも風化していくだろうか。
傷も段々と癒えていって、中堀さんのことを忘れることができるだろうか。
あぁ、そんなこともあったなって笑い飛ばせる日が来るだろうか。
「櫻田、今夜行ける?」
ぼけーっとパソコンの画面を見つめていると、自分の名前を呼ぶ声がした。
「え?」
誰もいないものと思い込んでいた私は、驚きながら顔を上げる。
「課の飲み会があるって、聞いてなかった?日にちなくて週頭で悪いんだけど…ちょっと早めにクリスマスと忘年会かけてって。」
見ると、同じ課の藤代君が、ファイル片手に私を見下ろしていた。
私の同期でもある。
「あー…」
確かに。
バタバタしていて全然忘れてたけど。
少し前に聞いた気がする。
で、全然出る気もなかったけど、返事をするのも忘れてた。
「多分、出欠席出てなかったから、一応参加ってことにしてた気がするけど…」
言いながら、藤代くんは私のデスクの上に高々とのっかっている書類に目をやった。
「終わる?」
もちろん。
終わらない。
と思う。