不機嫌なアルバトロス
元々人気のないホールに、私は一人で泣いている。


今このマンションに帰ってきた人が、私を見たら、間違いなく警察に通報するんじゃないだろうか。




後から冷静になればきっとそう思うんだろうけど。


今の私には到底無理な話だ。




頼りない足取りで、私は自動ドアを抜け、エントランスを抜け、階段を下りる。




一段、また一段。




中堀さんに、会わなくちゃ。


脳はさっきから叶わない願望を繰り返している。



ああ、でも会えたからと言って、なんて言えばいいんだろう。



彼の傷は癒えてなんか、いないのに。



ぱっくりと口を開けたまま、瘡蓋(かさぶた)にすらきっとなってはいない。



愛されてこなかったから、愛せない。



そんな人に、逢ったことがない。



だから、感情を理解することができない。



やっぱり。



成す術は、ない。




何のことはない。




私は来た道を、戻るだけ。




真実に少し触れることができたのに、負け犬のように尻尾を巻いて家に帰る。



途方に暮れて、家に帰る。
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