不機嫌なアルバトロス
電気を点けっぱなしで出て行ったアパートの私の部屋まで、階段を上るのが、辛かった。


縋れるものは、何もなくなってしまった。


残ってるものは、ゼロになってしまった。


重たい心を抱えた身体を引き摺るようにして、なんとかドアの前まで辿り着いて、鍵を開けた。



どうやって、ここまで帰って来たっけ。



そんなことすら、覚えていなかった。




部屋に入った途端、力なく、膝を着く。



その際に、何かにぶつかったようで。



ガコン、と音がして、中身が散らばった。




「いた…」




ぼぅっとした頭で、それを見ても、何なのか一瞬わからなかった。




「…あ」




ゴミ箱。


ゴミだ。



その中に、やけに目に付く。



黒い、カード。



メモリーカード。


さっき、自分の手で捨てたそれを、なんとなく、拾い上げた。




何故だか。



中身を、ちゃんと消してから捨てなくちゃ。



なんて、急に思い始めてきて。



力の入らない手を床に付いて、ふらふらとパソコンを起動させた。



差込口にメモリーを入れて、読み取るのを暫く待った。




自分の恥ずかしい写真なんて、笑えるけど。



これが、他人様の手に渡らずに良かった。



現実逃避なのか、なんなのか、どうでもいい安堵感に急に襲われる。




「…あれ…?」




てっきり、記録枚数は1とだけ表示されるものと思っていたのに。



画面に出てきた数字は、それより、少し、多かった。



私はメモリーカード内を見る事無く全消去しようとしていた手を止める。




「私、そんなに沢山撮られてたのかな…」




一枚だけって、言ってなかったけ。





首を傾げつつ、画像を開いた。





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