不機嫌なアルバトロス
「かーのーんーーー????」
「あっと、そうだった!もうこんな時間!私この後約束があるから、また明日ねっ!」
わざとらしく腕時計を確認した私は、さっさと立ち上がり、バッグを肩に掛ける。
「これ!あげる!」
手に持っていたミルクティーの缶を憲子に押し付け、じゃ、と出口に向かった。
「待ちなさいよー!!」
追っかけてくる憲子の声に、内心ひぃっと叫びつつ、エレベーターまでダッシュする。
憲子の質問には、答えられない。
だから、きっと怒られる。
仕方ないから逃げるしかないのだ。
でも約束があるっていうのも嘘じゃない。
寝不足な頭は回転も悪いけど、おめかしし忘れなかっただけ、褒めてあげたい。
いつもは恐いエレベーターの落下も気にならないほど、私はうきうきしていた。
今朝会ったばかりの中堀さん。
今晩も、また会えるなんて、夢みたい。
それも、ちゃんとした、お芝居じゃなく。
中堀さんと、花音の、約束。
鼻唄まじり、有頂天な私は、すでに酔っているんじゃないかとも思う。