12月の恋人たち
「彩里さん、顔、上げて?」
「いや。」
「どうして?」
「真っ赤だから。」
「その顔、見せて。」
「だめ。」
「なんで?」
「…恥ずかしいから。」
「彩里さんはずっと素直なままだね。だから僕は…まっすぐ気持ちをぶつけていいんだって、安心して言えるんだ。…好きだよ、彩里さん。好き、じゃ足りないね。…愛してる。」

 耳に直に響いたと思ったその瞬間には、唇に甘さが落ちてきた。そっと目を閉じると鼻をくすぐる透哉の香りに酔ってしまいそうになる。この胸も、この腕も、この香りも、そしてこの唇もとても好きだと思わずにはいられない。

「…お返し。」

 一度離れた唇を、もう一度重ね返す。丁度1年前のあの時のように。ただ、1年前と違うのは、このキスが悲しみを埋めるものではないということ、そして1年前よりもずっと、相手を大切に思っているということだ。

「…あーもうだめ。彩里さんが可愛くて仕方がない。離したくない。」
「一緒に帰るでしょ?今夜も透哉さんのお家でご飯食べようって…。」
「そうだけど。ご飯より彩里さんが食べたくなっちゃった場合はどうしたらいい?」
「は、はい!?こんな道端で何言ってんの!?だめ!絶対だめ!帰ろう、もう!」
「あはは、彩里さん焦りすぎだよ。…帰ろうか。」

 再び握られた手は、指と指を強く絡めてある。そんな繋ぎ方ができる関係になったのは半年くらい前だっただろうか。二人とも、恋に臆病になっていた。だからこそ、慎重に、そして丁寧に距離を縮めていった。お互いの気持ちが互いに向いていることには何となく気付いていた。それでも、特別であると伝えることは、失う怖さを二人に思い出させた。そのため、余計に時間がかかったのかもしれない。それでも、今はそのかかった時間さえも愛おしく思える。

「…お家に帰ったら、キスしてもいいの?」
「…さっきしたよ。」
「足りない場合は?」
「…自分で考えて!」
「えー。じゃあ質問変えるけど、彩里さんはあれで足りた?」
「た、…足りた、もん!」
「嘘つきー。僕に嘘つくなんてひどい!クリスマスなのに!」
「う、…うそ、じゃない、し。」
「じゃあ僕の目を見て言って。ほら、どうぞ?」
「っ~!意地悪!」
「ほんっとだめ。最近ずっと彩里さんが可愛くて可愛くて仕方がない病だったけど、今日は悪化した。早く帰りたい。」
「こんな子供っぽい透哉さん、貴重かも。」
「…今日はクリスマスイブ、だからね。大人だって子供みたいに我儘言いたい気分にもなるよ。」
「あ、じゃあ私も我儘言おうかな。」
「なぁに?」

 彩里は足を止めて、透哉の耳元に唇を寄せた。

「…今日はずっと離さないで。ぎゅってして。」
「…彩里さんのお望みとあらば、サンタクロースよりも先に叶えるよ。」

*fin*
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