12月の恋人たち
「お湯、大丈夫だった?」
「うっ、うん!ありがとう、陸くん。」
「いいえ、どういたしまして。」
「あ、バスタオル貸して。洗いに出しちゃうから。」
「えっと、あ、きゃっ!」

 不意に触れた陸の手に、身体中の熱が集中する。バスタオルを落として、気まずすぎる沈黙が落ちる。

「海央、ちゃん…。」
「ご、ごめんなさい、私っ…。」

 こんなつもりじゃなかった。こんなことを想像していたわけじゃなかった。もっと陸と仲良くなれて、陸の隣にただ楽しくいれると思ってた。それなのに現実はそうじゃない。緊張して、焦って、ドキドキして、止まらなくて、何もうまくいかない。じわりじわりと目頭が熱くなってくる。

「…海央ちゃん。」
「え…?」

 優しく腕が背中に回った。大好きな香りが身体中を包む。

「やっぱり泊まりに来るの、嫌だった?」
「え、…ち、違うよ!そうじゃなくてっ…!」
「緊張、してるよね?強張ってる。」
「それは…私が…全然だめ、だからで…。」
「全然だめ?」

 陸の胸の中で頷いた。この胸に包まれていると、素直に何でも話せるような気になってくる。

「…陸くんは、いつも通りなのに、私だけいつも通りにできない。こんなんじゃ…嫌われ…ちゃう…。」
「どうして俺が海央ちゃんを嫌う?それに、いつも通りじゃないよ、全然。ほら。」

 陸が腕に力を込めた。海央の耳が直に陸の心音をキャッチする。それは確かに少し早い気がする。

「ドキドキしっぱなし。俺がいつも通りに見えるのは、海央ちゃんに余裕がないからだよ。俺としては全然余裕がない。今も海央ちゃんの格好見てドキドキしてる。…伝わるよね?」

 抱きしめられたまま、海央は頷いた。

「…海央ちゃんがどう思ってるかわからないけど、俺も普通に男だから…、ちょっと今の海央ちゃん見てると我慢してるのが結構辛い。」
「え…?」
「…しないけど、でも、押し倒したくなるくらい…可愛い。」
「っ…!」
「あーごめん!余計緊張させた!でも、ちょっと俺にも予防線というか逃げ道作らせて!風呂入ってくる!」
「う、うん…。」

 こんなに余裕のない陸を見るのはもしかしたら初めてかもしれない。こんな風に言い逃げする陸も、今までにない。

(…陸くんも、私と…同じ、なのかな?)
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