12月の恋人たち
<午後16時半>

 仕事は淡々と終わっていった。今日は特に来客もなくそれもスムーズに仕事を進めることができた理由であろう。

「よし、見回りも終わったし、じゃあここで…。」
「…はい?」
「じゃーん!ケーキ!」
「えっ?」

 冷蔵庫の中から出てきたのは小さな箱。開けた先にはケーキが2つ。

「これ、どうしたんですか?」
「今日のために買ってきた。藤峰さんと食べたいなって。」
「…いただいちゃって、いいんですか?」
「うん。せっかくイブだし、ケーキ好きだけど、一人で食べるのって味気ないし。」

(一人で、なんてお互い様だ。)

「じゃあ、…いただきます。」
「うん。藤峰さん、ショートケーキだよね?」
「え、なんで…。」
「この前の打ち上げの時もショートケーキ食べてたから好きなのかなって。」

(バレ…ている…。)

「ありがとう、ございます。」
「お皿とか洗うの面倒だからいいよね、手づかみで。」
「はい。大丈夫です。」
「じゃ、メリークリスマス。」
「メリー…クリスマス。」

 案外大きな口でチョコケーキを一口かぶりついた雅人は、この上なく子どもっぽい。負けじと杏梨も大きな口を開く。

「藤峰さん、結構豪快。」
「山岸先生が豪快だったのでつられました。」
「藤峰さん。」
「はい?」

 ツンとさされた頬。向けられる笑顔はおそらく、杏梨が今まで見た雅人の笑顔の中で最も甘く、優しいものだ。

「え、な、なんですか?」
「ほっぺ、生クリームついてる。」
「え、えぇ!?わぁ、恥ずかしい!すみません!」
「いえいえ。謝られるようなことじゃないし。むしろ、ありがとう。」
「え?」

 突然の『ありがとう』にどう対応したら良いのかわからない。ただ、その笑顔はやっぱり甘い。
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