12月の恋人たち
「あの、…私、ありがとうなんて言われるようなことをしてないと思うんですが…。」
「藤峰さんが笑わせてくれるから、楽しいイブになったし。」
「それですか!?」
「ううん。それだけじゃないよ。」
「え…?」

 雅人がチョコケーキを飲み込んだ。

「俺の話、いつも真剣に聞いてくれるでしょ?この前話した、藤峰さんの挨拶が暗いとかドア閉めるの強くてびっくりするとか、そういうのも真剣に治そうとしてるじゃん。そういうの、素直に嬉しいなって思うし、まぁ…それだけじゃないんだけど。」
「だ、だって!それでよくない印象与えてるならよくないなって思ったし、それに…私が、…えっと、言葉が響かずに何の意味をもたないなら言いたくないなって思ってるクチ、なので。」
「うん。それも知ってる。だから言う意味も価値もあるなって俺は思える。」
「…なんか、いろんなことがお見通しで、…私、そんなにわかりやすいですか?」
「ううん。俺が注意して見てるだけ。そもそも藤峰さんの方が俺のことお見通しじゃん。」
「…それは、私の人間観察が趣味みたいなものだからです!」
「うん。でも、今日はすごくありがとうって言いたい気分だったから。」
「…それじゃあ私も、ありがとう、ですかね?」
「何の、ありがとう?」
「まずは、ケーキ、ありがとうございます。…それと、いつも、話を聞いてくれてありがとうございます。それと、同期が山岸先生だったことにも、ありがとうございます。」

 それはいつもはっきりと思っていたことだ。普段口にすることはタイミングとしても気恥ずかしさとしても難しいから、今言ってしまおうと思う。勢いに便乗することは意外と大事なことだ。

「…ありがとう、藤峰さん。」
「こちらこそ。」
「俺、多分来年も仕事頑張れると思う。」
「え、なんでですか?」
「なんとなく、だけど。」
「私は…わかりません。」
「藤峰さんらしい答え。んじゃ食べ終わったし、帰ろっか。」
「はい。」

 当たり前のように並ぶ、自転車での帰り道。寒い風が頬に心地よいくらいに頬が熱いことに、やっと気付けたクリスマスイブ。

*fin*
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