ラブレター
第10話

 どう返事して良いかも分からず、結衣はただ顔を赤くしたまま慎吾を見つめる。慎吾も緊張しているためか肩に力が入っている。
(告白されたんだよね? えっ、私と慎吾さんって加害者の被害者の関係だよ? 有り得ない……)
 黙っていると慎吾が口を開く。
「やっぱ、ダメ、ですかね?」
「えっ、えっと、私?」
「いやいや、ここ僕と結衣さんしか居ないから」
「で、でも、私、慎吾さんを傷つけた張本人だし、麻友さんの……」
「ストップ! それ以上は言わないで」
 慎吾の制止で結衣は言葉を飲む。
「事件のことは全て措いといて、単純に僕と付き合いたいかどうかだけ聞かせて」
(慎吾さん……、凄く優しい人。付き合えるものなら付き合いたい。でも、事件のことを抜きに考えることなんて到底できない。どうあがいても、大事な麻友さんを殺した事実が消える訳でもない。きっと、将来上手くいかない……)
「ご、ごめんなさい。慎吾さんとは付き合えない」
「そう、やっぱり。合コン入れると余裕で十連敗だ……」
「ごめんなさい。仮に付き合っても上手くいかないと思う。私が気を遣う」
「ん? ちょっと待って。じゃあ、気を遣ってもらうという方向で付き合うことは可能?」
(あれ? コレ何か変なことになってる?)
「ええっと、あの、端的に言うと、多分ずっとよそよそしい感じで、いつまでたっても打ち解けないと思う」
「例えば?」
「た、例えば? 例えば、ずっと敬語とか毎日事件を省みて謝ったりとか」
「じゃあ、それでもいいから付き合おうよ」
「えっ!? いやいや、おかしいから。そんな彼氏彼女関係有り得ないし」
「そうかな? 結衣さんって手紙での雰囲気以上に明るい人だし、なんだかんだ言って上手く行きそうな気がするんだけど」
(うっ、予想以上にガツガツ来るな。普通にイケメンだし、なんで合コンでモテナイのか不思議なくらいだ)
 どう切り返すべきか悩んでいると慎吾のほうから攻めてくる。
「単純に僕が嫌いとかタイプじゃないとかなら仕方ないけど、もし事件の事がネックで付き合いを考えあぐねているんなら止めて欲しい。その部分と恋愛は切り離して考えるべきだし」
(嬉しいこと言ってくれてる。けど、無理だ。どうしても亡くなった麻友さんに申し訳が立たない……。慎吾さんには悪いけど、ここは嘘をついて諦めてもらおう)
「ごめんなさい。実は私、年下の人をそういう対象に見れないの。ちょっとファザコン入ってるし、年上のおじ様ファンなの」
「あ、そ、そうなんだ。そっか、じゃあ仕方ないよね。うん、無理言ってごめん」
(うわぁ、凄く凹んでる。ホントは私も慎吾さんと付き合いたい。ごめんね、慎吾さん……)
 肩を落とし落ち込んでいる慎吾を見て申し訳無い気持ちが溢れてくる。
(気持ちは凄く嬉しいけど、その想いだけ大切に胸にしまっておくからね。ありがとう、慎吾さん)
 じっと見つめていると、慎吾は顔を上げる。
「結衣さん」
「はい」
「そろそろ面会時間終わりますよね」
「ええ、三十分の制限があるからもうそろそろかな?」
「また、会いに来てもいいですか?」
「ええ、私に拒否する権利は無いと思ってますから、いつでも大丈夫」
「ありがとう。じゃあ、あまり頻繁だと結衣さんもプレッシャーになるので、月に一回、月末の金曜日に会いにきます」
「分かりました。お待ちしてます」
「それと……」
「はい?」
「来るたびに必ず貴女を口説きます。手紙も書きます。覚悟しておいて下さい」
 真っ直ぐな瞳を向け笑顔で語られる告白に結衣は堪らず顔を逸らす。
(ヤバイ。毎月口説かれたら、流石に演技しきれないかもしれない……)
「じゃあ、僕、行きますね。また来月。会えるのを楽しみしてます」
 手を振りながら去って行く慎吾を呆然とした表情で結衣は見送っていた。

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