届かぬ声を、君に。
個人練習の時間。
部活中も、なぜか響也の笑った顔が頭から離れない。
ぼーっとしながらクラリネットを吹いていると、同じパートの愛衣(あい)が私の顔を覗き込んできた。
「舞香?」
「はっ.......はいっ!」
びっくりして、声が裏返った。
愛衣は、一瞬目を丸くしてあははっと笑った。
「舞香ってば。なんでそんなびっくりするの?」
「えっ......なんか......」
好きな人の笑顔を思い浮かべててぼーっとしてた、なんて口が裂けても言えない。
私が言葉を濁らせると、愛衣は不思議そうな顔をして自分の練習に戻っていった。