届かぬ声を、君に。
美桜は、生まれつき難聴でかすかな音も聞こえない。
だから、私たち家族はみんな手話で美桜と話す。
美桜が私に向かって、『おかえり』と手を動かす。
私も、にっこり笑って『ただいま』と返す。
このやりとりが、私たち藤澤家にとって宝物のようなものだった。
言葉がなくても人と繋がれる。たとえそれが、音にならなくても。
美桜みたいな人とでも、言葉が通じるっていうことが嬉しくて。
だから私は、手話が好き。
美桜が、美花や春樹、お母さんやお父さんと手話で話しているのを見ると、なぜか心が温かくなる。
美桜が、たまに耳のことで何か言われてたりするとすごいショックだし、美桜がかわいそうになってくる。
でも、美桜はそんなことは気にしない明るい性格なんだ。