守ってダーリン!
閉店時間5分前。

私はぼんやりと、ホールスタッフ定位置のキッチンの入り口に佇んでいた。

店内にいるお客さんは、直くんと、もう一人だけになっていた。

その、「もう一人のお客さん」が、伝票を持って席を立つ。

先日、「7 luxe」を取材してくれた、出版社に勤める狩野さんだ。

狩野さんは私と同年代で、都会的な好青年、といった雰囲気の、かっこよくておしゃれでとてもさわやかな男性である。

伊佐子さんもバイトの千穂ちゃんも、玲奈も認めるかっこよさで、みんな揃って「ステキー」と言って、来店時は目を輝かせている。

取材以来、よく店に来てくれるようになっていて、いまや常連と言っても過言ではない。

「市谷さん、お会計お願いします」

「・・・あ!はい!」

ぼんやりと立っていた私は、声をかけられ、慌てて「ありがとうございました」と言いながらレジへと向かった。


(いまだに結婚後の名字で呼ばれるのは、なんかくすぐったいっていうか・・・慣れないんだよね)


レジに入った私は、狩野さんから伝票を受け取ると、数字のボタンを指で押す。




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