守ってダーリン!
その後、市谷さんは車道の方へ歩み寄り、空車のタクシーを一台停めた。

「今日はさすがに、タクシーで送るから。」

黒い車体のドアが開き、二人で中に乗り込んだ。

市谷さんが私の家の方角を伝えると、ハザードランプを消したタクシーが走り出す。

時折聞こえる通信音と、車道を滑るタイヤの音。

それ以外の音は何もなくて、私は沈黙に息づまる。

後部座席の端と端に座っている私たちは、運転手さんに、どんな関係に見えるだろうか。

「あ、えっと・・・市谷さん、甘党なんですね。知りませんでした。」

静かな空気が苦しくて、私は彼に話しかける。

「・・・ああ。似合わないから、基本的に黙ってるんだけど。

情報だだ洩れだったな。」

窓の外を眺めていた市谷さんが、私の方へ視線を向けると、諦めたようにため息をつく。

私はなんだか笑ってしまう。

「あ・・・じゃあもしかして、スコーンにも生クリームつけましたか?」

チカンから助けてもらったとき、お礼にと渡したスコーン。

確かあのとき、ジャムや生クリームが合うとおすすめしたはず。

甘党だったら、生クリームをつけたかな。

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