博士と渚くん


「俺はさ、ずっっとそのストーカーのことが許せなかったんだ。
博士の心傷付けてさ、博士の人生狂わせてんだよ」

「……」

渚くんがここまで怒りを露わにするところなんて初めて見た。

「本当はもっと聞くに耐えない罰でも与えてやろうかと思ったけど、それは博士が嫌がるだろうからやめた」

警察に連れて行かれたということは、あの人はもう教職を続けられないだろう。
私にとってはその事実だけでもかわいそうに思える。

「またそうやって同情してる。
兄ちゃんも博士も優し過ぎる。あいつのせいで博士は大学も辞めて、外にも出れなくなったってのに」

渚くんは私のことを考えて行動してくれている。
私は優しいんじゃなくて、波風を立てないようにしているだけ。
本当に優しい人ってのは、君みたいな人を言うんだろうな。

「……ありがとうね」

「な、何のお礼」

「私のために怒ってくれてるんでしょ。
私なんかよりも、渚くんの方がずっと優しい」

「そんなわけないじゃん、俺なんかが」

「私のトラウマのために動いてくれたんでしょ。
渚くん自身が危険な目に遭うかもしれないのに」

渚くんは私から顔を背けた。
照れてるのかもしれない。
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