博士と渚くん
「お願いします! ぜひ、うちのクラスの文化祭に出て下さい!」

土下座した女子が言う。
意味がわからない。私は渚くんを見た。

「うちのクラスで劇やるんだけどさ、みんなヒロインをやりたがらないんだ。
だから、博士にしてもらえたら助かるなって」

「え? そんなの嫌だよ」

「お願いします! あなたしかいないんです!」

情熱的なアプローチ。
なんで私がそんなことを。
ただでさえ人前に出るのが苦手なのに、五つも歳の離れた子達と劇なんて無理。

「悪いけど私、演技なんて出来ないし」

「あと2ヶ月もあれば、なんとかなります!」

「てか高校生に混じるのはちょっと…」

「大丈夫です! 学校にも許可とりました!」

「うっ…」

初めて顔を上げたその女子はキラキラした目で私を見た。
お願いだからそんな目で見ないで…。

「ち、ちょっと、考えさせてください…」

だめだ。こんな綺麗な目を裏切るようなこと、言えない。
今の私にはこれが精一杯の抵抗だった。

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