いちごミルクと雨音と
いちごミルクと雨音と
「先輩、ちょっと休憩しませんか?」
窓の外は朝から雨が降っている。
校舎の窓から見下ろす校庭は、下校する生徒の傘が咲いていた。
授業が終わってからずいぶんと時間が経ったせいか、傘の咲き方もずいぶんとまばらになっている。
「私、いちごミルクは好きじゃないんだけど。」
机に置かれた紙パックに入ったチープないちごミルクに、彼女は投げやりな目線を送る。
わざわざ、1階にある自販機から買ってき俺の労力を、彼女は一切無効にする。
それとも、女子なら皆いちごミルクは好きだろうという俺の考え方を「安直だ」と言いたかったのだろうか。
「えー、だったら先輩、何が好きなんですか?教えてください。」
「いち学級委員の分際で、うるさい。」
「えー、酷くないですか?俺ら学級委員がいるから、生徒会がやっていけるんだと思うんですけどー、なんていうか、隊長と小隊長みたいな。」
「うるさい。」
そう言うと、ついに彼女はミュージックプレイヤーを取り出し、イヤホンで耳を塞いでしまった。仕方なく、俺も黙ることにする。
雨の日の生徒会室は決まって静かだ。俺と彼女しかいない。
いつもは、話の止まらないお喋りな生徒会長が居すわっているが、雨の日はいない。
会長のカノジョは運動部に所属していて、雨の日は練習がないらしく、仲良しこよしで下校するとかで、いない。
つまるところ、雨の日しか、俺と彼女は二人っきりになれないとういことでもある。
どこまでも静かだった。
時計の秒針の鳴き声をかき消すように、ブラスバンド部の練習する音が遠くで響いている。
そんなくり抜かれたような空っぽな空間の中心で、彼女は「生徒会便り」を書いている。
青色の薄い罫線がひかれた紙の上に、今どき珍しく手書きで文字をつづる。
一文字一文字、やけに丁寧に、定規を当てて書いたんじゃないかというほど、まっすぐな文字だった。
「今どき、手書きとかって珍しいですよね。俺ならパソコンで打っちゃいますね、字汚いし。」
彼女からの返事はない。彼女の両耳は相変わらずイヤホンで塞がれ、その先ではきっと音楽がなっている。
それが、少し悔しい。
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