いちごミルクと雨音と
頭いいくせに漢字をケータイで変換させてるとことか、左右の長さが違う靴下を履いてきたことに気付いて、必死に靴下の長さを調整したりとか、試験明けに生徒会室で寝ていることとか。
そんな誰でもが知ることができない彼女は、抜群に可愛くて、たまらない。
「好きなんです。」
ぽつんと、俺の唇が言葉を作る。
天気予報が傘マークを付けるたびに、俺はいつもドキドキしていた。
まるで、お天気お姉さんに恋でもしているようだった。
雨の日の放課後は、生徒会室で彼女と二人きり。
何を話そうか、どんな彼女を知ることができるだろうか。
そんなことをぼんやりやりと考えながら、「雨スペース告白スペース仕方」と、ケータイで検索する自分がいい加減気持ち悪くなってきた所だ。
「好きなんです。教えてください。」
雨の音と、心臓の音しか聞こえない。
胸が苦しくて、顔が熱い。
掌が震えて、冷汗がにじみ出るのが脳ミソの奥までも伝わる。
「聞いてくれたっていいだろ!?」
彼女の耳を塞ぐイヤホンに手を伸ばす。手の平が触れる彼女の頬は暖かくて、指先が掠めた耳は柔らかかった。
少し乱暴に奪い取ったイヤホンからは、流行りのラブソングが零れていた。
愛してる、愛してると、歌う。
「聞かなきゃ、だめ……?」
誰の声だというほど甘くて、震える声が返ってきた。
見上げてくる彼女の視線とぶつかる。
これ以上赤くなりようがないというほど顔中を染めて俺を睨み付けてくる。
その視線に、いつものような強さはなく、溶けかけのチョコレートのようだった。
全ての音を上塗りする心臓の音がうるさい。
頭に血液が上がって、ぼんやりとするのが分かる。
しかし、どこか他人を見ているような感じがした。
自分のことより、彼女が可愛くて仕方がなかった。彼女のいつもとは違う赤い顔が可愛い。
いつもとは全く違う溶けた瞳を見つけられたことが嬉しい。
彼女の甘い声がくすぐったい。
ぎゅっと必死に力む唇の震えがたまらない。
「可愛い。」
「う、うるさい。」
「だめ、先輩、もう、可愛い、その顔超可愛い。」
全てがくすぐったくて笑いが零れると、彼女は観念したように下を向いた。
完璧に頭を下げたまま、上げようとしない。
「聞きたいことがたくさんあるだ。」
「知ってる。あなたはだいたい、いつも質問しすぎなのよ、そんなに一度に答えられるわけないじゃない。」
俺は、下を向いたまま震える彼女の肩に手を置く。
一瞬、身体を大きく震わせて、彼女は肩の震えを止めた。
「じゃぁ、とりあえず、俺のこと好き?」
顔を上げたら負けだ。
きっと、彼女はそう思っていると思う。
下を向いたままの彼女はいったいどんな顔をしているのか、想像するだけで楽しい。
きっと、真っ赤に染めて、唇をかんでいるのだろう。
こんな顔、俺風情には見せたくないと、きっと思っているのだろう。
だが、俺は負ける気はしなかった。真っ赤に染まる耳を見つめて、彼女の肩に腕をおいて、彼女の顔が上がってくるのを待てばいいだけだ。
彼女と次、視線が合った時、俺の勝ちが決まる。
耳の横に移動したかのように煩い心臓の音と、はるか遠くで聞こえる様な雨の音を聞きながら、待っていれば、答えが返ってくるのだ。
きっと、すぐだ。