苦難を乗り越えて
家族…。一人っ子だと思っていた早紀に弟がいたことをタケ君が知り、家族は出来るだけ一緒にいるべきだと三人で住まないかと提案してきたタケ君。早紀もタケ君に即賛成した。弟に話すと「結婚するまでね」とまた可愛い気のない言葉で返ってくる。けど照れているんだと早紀にはわかった。弟はビデオ屋さんで夜働いてるため、あまり家で顔を合わせることはなかった。けど一つ屋根の下に一緒にいれるだけで早紀は嬉しかった。朝食はいつも三人で食べた。幸せな時間だった。弟が家にきたことで、早紀とタケ君の中に足りなかった何かがスッポリと埋まった感じで前より仲良くなった。お父さんも、きっと天国で喜んでいるだろう。お母さんには正直に弟と一緒に住んでいることを話した。お父さんがお母さん以外に愛した人との子供だから嫌だったとは思う。でも子供には罪はないし、お母さんもわかってくれると思っていた早紀。だけどやっぱり理解したくないのか、お母さんとの仲は少し悪くなった。出会いがあれば別れも来る。弟は彼女と結婚することになった。姉の早紀より先に。喜んで祝福すべきなのだろうけど、せっかく会えた弟と離れるのが淋しかった。またタケ君と二人の毎日何もない会話も少ない生活に戻るのかと、不安もあった。弟が結婚してからタケ君も早紀も変わったかもしれない。平凡な日々。弟が居たとき、休みの日は三人で出かけたり、ゲームしたりしていたのに、弟が居なくなった途端、穴が開いたように何も無くなった。タケ君は警察にお世話になることが多くなった。何が変わったのかわからないが、飲み歩いては喧嘩して帰ってくる。そのたびに早紀は傷の手当をする。「早紀は看護婦でも家政婦でもない」毎日の口癖になっていた。好きだとか言われることもなくなって、慣れればそんなもんだと諦めているつもりでも、結婚しているわけじゃないのに。このまま一生タケ君に尽くして、死ぬのかな。なんて不安が過ぎる。真剣に別れを考えた。早紀は毎日オシャレしてタケ君のために尽くしていても、何も得られない。別れても何も変わらないかもしれない。早紀に原因があるなら。でももし早紀に原因がないのなら、別れた方が人生プラスになる。ネイルの仕事で、地方に先生として出張に行かないか、と話しがきた。一年間、帰って来れない仕事。これが人生の再出発になるかもと思い、タケ君に別れを告げることにした。付き合って七年。問題も色々あった