いろはにほへと
なのに、だ。
彼女は、俺から目を逸らして。
何かに気付いたかのように、倒れた脚立の方へ目をやった。
えーと?
「あの、聞いてる?」
探るように、下から彼女を覗き込もうとすると。
「…!聞いていますので、その…覗き込むのはやめていただけますか?」
彼女は咎めるようにそう言うと、長い前髪を慌てて押さえる。
え、なんで。
よくわからないけど、機嫌を損ねてしまったらしい。
これは、まずい。
「え、あ、うん。…ごめん。」
まずいな。ここに置いてもらわないと、なんか本当にどうにかなってしまいそうで、怖い。
やがて、躊躇いがちに彼女は口を開く。
「…あの、私、犯罪者の肩を持つ気は…」
はぁ??
いや、まぁ、そうか。
そう思われても仕方ないわけか。
冷静になれ、俺。
「犯罪者じゃないから!」
「……本当ですか?じゃあ、なんで…」
否定したのに、直ぐに訊き返されて言葉に詰まった。