いろはにほへと
まだ、もう少し声が聞きたい。
そう思って、樹のことを訊ねると、幾らかひなのの表情が和らいだ気がした。
藤の手入れ方法を教わって、何ともなしに真似してみるが、ふと物悲しく思った。
「花は咲くけど―直ぐに散っちゃうから、哀しいよね。」
「…どうしてですか?」
摘んだ先端を見つめながら言えば、ひなのから問い返しを受ける。
まさか、自分達みたいだから、とは口が裂けても言えない。
「一瞬で、終わっちゃうでしょ。次にいつ咲くかもわからない。だけど咲くもんだと勘違いしてる人もいて。それで咲かないまま終わっちゃえば、もう見向きもされなくなる。」
どんだけあがいても、頑張っても。
どんだけ心を籠めても。
それが実るとは限らない。
早川みたいに、今の波に乗れば、どんな曲でも売れると勘違いするやつもいる。
けど、現実はそうじゃない。
手を抜けば、世間は見向きもしなくなる。
ただ、『今』、俺達の作る音が、許されてるだけで。
一度散ってしまえば、あとは何も残らない。